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第3話 こんな私にも相棒ができました
放課後、虫雄君と二人で神社に向かう。五月の心地よい夕方。太陽はまだ夕日になるほど弱くはないけど、昼間に比べると全然勢いがない。世界の色が、少し薄く感じる時間帯。
「ノコノコと付いてきちゃったけど、本当にこれで良かったのかな。」
思っていることがついつい口から出てしまった。これは流石に虫雄君に失礼だな。反省。
「え?ノコギリクワガタがどうしたって?」
いや、お前の脳みその変換機能どうなってんだよ!絶対わざとだろ!
こいつに気を遣うだけ無駄な気がしてきた。
「もしかしたら男子には無いかもしれないけど、女子にはグループ派閥争いみたいなのがあるのよ。新しいクラスが始まる時とか、私みたいに転校する時は、色々やんないといけないことがあるの。」
「男にだってグループ派閥争いぐらいあるぞ。」
「男子も大変なのね。」
「あぁ。それはもう激しい争いさ。まず、大きく分けて、カブトムシ派かクワガタ派に分かれる。その中でも、ノコギリクワガタ派かミヤマクワガタ派に分かれ、」
「いやいや、違う。そんなに分かりやすいものではないんだよ。数人のグループがいくつかあって、そのグループ毎に地位があって、グループの内部にも力関係がある。そして、居心地の良さとか、他にも色々考え、様子を見ながら人間関係を構築していかないといけないのよ。」
「それって、面白いの?」
「いや、面白いとは思わないけど、そういうものなのよ。」
「面白くないなら、やんなきゃいいじゃん。」
「そんな単純なものじゃないんだよ。」
好きとか嫌いとかいう感情があるいじょう、皆仲良くすることなんてできなくて、その感情も蝋燭の炎のようにユラユラと揺れる。人は、関係性によってカメレオンのように変わり、時の流れの中で古い細胞が洗い流され、日々脱皮する。だから、人間関係は複雑にならざるを得ない。男子よりも女子の方が、気持ちの移り変わりが激しいから複雑になってしまうんだと思う。女心と秋の空とはよくいったものだ。程度の問題で、男子にもそれなりに複雑な人間関係はきっとあるはずだ。
しかし、さっきからダンゴムシに話しかけている虫雄君を見ていると、なぜか持論に自信が無くなってくる。
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