1.下宿生活0日目

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 ──何で猫が廊下にいるんだ!  都合15匹はいただろうか、足元をかすめて一気に出て行った。  パチっ! ──突然廊下の電気が点いた。  明るくなったその場所は壁のビビ割れを浮かび上がらせ、建物の熟成度をきわだだせる、うーむっ──てそんな事に関心してる場合じゃない何で電気が点いたんだ。  ──ギシ、ギシ、ミシギシ…ギシ、ギシ、ミシギシ…  母屋につながっている反対側の暗闇から気配がする。その廊下の先にもドアすらない。いやーもう帰る。  暗闇を凝視する、和服?  廊下の電灯に照らされてゆっくり姿が浮かび上がる。  でたーばあちゃんの幽霊だ、小学生の頃、もりのなかで見たヌシそっくりだー。思考が錯綜しパニックになりかけた瞬間、ヌシが口を開いた。 「ようきたのぅ、ふへへ…大家のHです」  ぎゃーHってどういうこと、ヌシ、幽霊、浮遊霊、地縛霊が大家って?…ん、大家ですか、大家ですか、大家さんなんですね! 「大家です、部屋に案内しましょう、ふへへ…」  ヌシには違いないが人間だった。  少しホッとした。  ──後で分かったのだが、まだ春休み中で入学式後じゃないと先輩たちは誰も下宿に帰らない、猫は無責任に繁殖させた大家の猫だった。しかし、学生の食い物は盗むわ、勝手にコタツに入るわ、ニャーニャー夜な夜な五月蝿いわ、ダニを連れてくるわ、引っ掻くわ…この下宿に入るという事は、猫と戦うソルジャーになる事を意味していた。
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