彼は不思議な子であった

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──長い月日の経過があった。 早いようで遅い、遅いようで早いその時間の中、我が家に新たな命が誕生。黒髪の男の子が産まれ落ちた。 どこか見覚えがあるようなその子は、物心つく頃から、私の後ろをちょこちょこと追いかけてくるように。かなりのなつき度を垣間見せ、母たちを随分と喜ばせていた。   「おねーちゃん」 ある日のこと、物書きが出来るようになってきたその子が、私になにかを見せてきた。真っ白な紙に記されたそれは、いつか見た、あの仮面の表情と酷似している。 唖然とする私に、その子は紙で作った仮面を顔に宛がい、けらりと笑う。小さく首を傾け、「おぼえてる?」と問うてくるその姿は、まだまだ小さいというのに、制服姿のあの子と重なって──。 「……まもってくれるんだよね? ぼくのこと」 当たり前だ。 そう叫ぶ前に、その子の頭をわしゃわしゃと撫でまくる。 好き勝手な私の行動を、彼はもう、咎めることはしなかった。
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