彼は不思議な子であった

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「ええっと、あー……こ、こんな所で何してるの? 見たところ同じくらいの子だと思うけど……あ! もしかして傘を忘れたとか? 親御さんに連絡する?」 畳み掛けるように質問し、恐る恐るではあるものの、怪しい仮面男へと近づいた。そうすることでわかったのは、彼の身長が、存外低かったことである。 私の視線よりも数センチ低い位置にある頭。この雨の中でも跳ねた箇所の目立つそれは、天然パーマなのだろう。緩やかな曲線を描く癖毛が、見た限りでもかなり確認できた。 「……結構です」 答えが返ってくる。 やはり自信の無さそうなそれは、いろいろなことがどうてもいいと言いたげな、諦めすら感じられた。 「結構って、でも……」 「……結構です。放っておいてください。それだけで良いです」 「ええ……えー……」 そんなことを言われても、という気分である。 さすがにこんな雨の中、こんな怪しい、されど恐らくは年下であろう少年を放置するのは気が引けた。お節介ではあるだろうが、私の中の良心が、せめて何かをしてあげたいと訴えているのだ。この謎の少年に。 「……放っておいてください」 悶々と考える私の思考に気づいたのか、彼は再び、小さな声を紡ぎ出した。先ほどまでの言葉よりも、若干力が強くなったそれは、明らかなる拒絶を表している。 本当に、放っておいてもらいたいのだろう。 というよりは、私に関わらないでほしいのだろう。 ふいっ、と背けられる顔に、いつの間にやら緊張をなくした私は、一度だけ肩をすくめた。そして、少し考えてから、手にしていた傘を彼へと突き出す。 「放っておいてほしいなら、せめて傘くらい受け取って」 そうすれば私の良心も、満足して帰宅することを許してくれることだろう。 真剣な表情と共に「ん」と傘を押し付ければ、戸惑う少年は大人しく差し出したそれを受け取った。そのまま、天に向かって開かれっぱなしの傘を差す姿は、ようやく雨粒から解放される。 「よし! それじゃあね!」 私は笑った。笑って、彼のかわりに濡れる体を一刻も早く暖めるべく、家に向かって駆けていく。 帰宅したらきっと、母さんたちは大層驚くことに違いない。 なんてことを、考えながら……。
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