彼は不思議な子であった

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──雨に打たれて帰宅した翌日。 私はまた、あの仮面を目にしたいがために、まだ朝の早い、晴れた空の下を歩いていた。 今日は昨日とは大きく異なり、カラッとした晴天だ。新鮮な空気が美味しく感じられ、思わず二、三回、深呼吸をしてしまう。 その際、朝の運動中なのだろう。 ジョギングをする謎の男性が、腕を伸ばす私の横を、無表情で通りすぎていった。 「……人がいたの気づかなかった」 自嘲しようと咳払いをし、改めてと、足を動かす。 「……あ」 まだ渇ききっていないコンクリートの上をひたすら歩いていると、暫くして見えた昨日の出会いの場。朝でも不気味な墓地を背後、佇むように、彼は昨日と同じ姿でそこにいた。 晴れているというのに、差しっぱなしにされた傘。水玉模様の目立つそれは、女子が気に入りそうなデザインだ。つまり、言ってしまえば可愛らしいわけである。 「……ますます怪しい」 ぼそっと呟き、後ろ手に腕を組み合わせ、私は前方へ。さらに怪しさに歯車をかけた彼に、「おはよー」とのんびりとした声をかけてみた。 「……おはよー」 わざと間延びさせた挨拶が返ってきた。かけられた言葉を真似たような台詞に、私はたまらず苦笑。「傘、役に立った?」と笑みを浮かべて問いかけた。 「昨日は大雨だったけど、強い風もなかったし、ひっくり返ったりはしなかったでしょ? だいぶ雨も凌げたと思うし、役立ってたならいいなーって……」 「……善人ぶりたいんですね」 「おおう、言うね、君」 決してそういうわけではないと釘を差し、傘を返してもらう。差しっぱなしのお陰か、キレイに乾いたそれをきちんと巻けば、彼は黙って首をかしげた。 ずっと思っていたが、これは彼の癖かなにかなのだろうか。苦笑しつつ、「どうしたの?」と声をかけてみる。 「……いいえ。放っておいてください」 彼は言った。小さな声はひどく淡々としており、私の行いに興味がない、ということが丸分かりだ。 もう少しくらい繕ってみればいいものの……。 まあそれも人それぞれかと、丸めた傘を片手に彼の隣へ。真っ直ぐ前方を見たままピクリとも動かぬ彼に、「ねえ」と声をかけてみる。 「あなた、帰らないの? 仮面つけたままこんな所にいたら、不審者と間違われちゃうんじゃないかな?」 ちらりとこちらを見た彼が、くぐもった声を発する。
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