彼は不思議な子であった

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「……放っておいてください」 返されたのは、いつもの台詞だった。 もはやテンプレートにすら聞こえるそれに、私は頬を膨らませて「あのねぇ」と彼を見る。 「放っておいて放っておいてって、放っておけるわけないでしょう? 君、見たところ家にも帰ってないみたいだし、お腹とか空いたらこう、あれだと思うじゃん!」 「……あなたの自己満足のために、僕を利用しないでください」 「自己満足って……」 ひどい言い種だ。 もう怒った!、と私は彼の前へ。嫌でも視界に入る位置に移動してから、両手を腰に当て、睨むように仮面を見下ろす。 「あなたね、そんな変なことばかりしてると、周りから嫌われるわよ! 少しは人と接する努力をしたらどうなの!?」 「……お節介は懲り懲りです」 「お節介じゃないし!」 いや、お節介なのか……? ちょっと冷静になった頭で考える。共に、目の前の彼が溜め息を吐き出した。 どこか疲れたような、迷惑そうなそれは、明らかに私のせいで放出されたものだろう。 「……努力をしたところで、人は変わりません。醜く弱いものを蔑み、見下し、美しく高貴なものを称えて、乞う。実に薄汚い本質だ。僕はもう、そんな輩どもに振り回されるのはごめんです」 「……あー」 なんと言えばいいのか、よくわからない。というか若干理解が追い付かない頭が、思考回路を止めに来る。 こういう、ちょっと頭良さそうな謎の発言、私はすごく苦手なのだ。 「……よ、よくわからないけど、意識次第で変われると、思う」 少しばかりの間をあけて、私は告げる。 そんな私を、彼は「ふんっ」と鼻で笑った。 「……偽善者」 背けるように顔をそらした彼は、そのまま墓地の中へ。吸い込まれるように姿を消し、やがて、見えなくなった。 「…………え?」 疑問をこぼす私だけが、その場にぽつんと取り残される。 一体彼はどこへ行ったのか……。 考えるも、探すことは止そうと思った。 これ以上、踏み込んではいけない。 私の中のなにかが、忠告している。 「……帰るか」 また明日来てみよう。 決心して、帰路につく。 そんな私を嘲るように、頭上でカラスが鳴いていた。
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