カミング!

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カミング!

「実はわたし、プロの招き猫なの」  予想外の告白に、僕はぎくりと身を強張らせた。  取り繕いようのない動揺に、僕は彼女と目を合わすことができない。  早く何か言わなくちゃ。焦れば焦るほどに気持ちは空回り、うまく言葉にならない。座敷に気まずい空気が漂いはじめたところで「入るよ!」と陽気な声が障子戸を叩く。 「いらっしゃい」  そう言って笑顔をのぞかせたのは大将だ。お盆の上のお冷が少しだけ汗をかいている。 「カオルちゃん、お母さん元気?」  浅黒い頬に白い歯が眩しい。その抜けるような明るさに場の空気がゆるむ。――助かった。  ここ讃岐屋は、カオルが幼い頃からの馴染みの店だ。母子家庭でお袋さんの仕事が夜遅かったこともあり、週の半分はこの店で夕飯をとっていたと聞く。独り暮らしを始めてからは少し足が遠のいたというが、僕たちの初デートもディナーはこの店のニシンそば定食だった。古びて落ち着いた店内と、安価なメニューが気に入って、最近じゃ僕の行きつけになりつつある。 「お蔭様で」 「しばらく見てないからな。たまには顔出せって言っといてよ」 「最近どうも出不精みたい。伝えておきます」  カオルの会釈を見届けて大将は廊下へと退散した。障子戸が閉まりかけたところで目があい、僕は目礼を送った。どうも。  お冷に口をつけると、喉がカラカラだったことに気づく。カオルがひとつ咳払いをうち「ごめんね、黙ってて」と苦笑した。 「さすがにびっくりするよね」 「そんなこと、ないよ」  大将のおかげで場の空気もリセットされたみたいだ。僕はようやく落ち着きを取り戻しつつあった。  そう、カオルが謝るようなことじゃない。  僕だから、あんなに驚いたんであって。
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