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俺はカスタマーセンターへ、息子のアンドロイドがバグを「勝手に」起こしたと電話した。
本当は、自分が突き飛ばしたからだ。
しかし、突き飛ばしたからといって、必ずしもバグを起こすわけない。
そうだ。バグを起こしたのは、向こうの過失だ。
品質が悪いせいだ、衝撃に対応していないせいだ。
俺は悪くない。絶対に、悪くない。
客を困らせる方が、悪いに決まっている。
いちど、娘の誕生日プレゼントに買ってやった赤ん坊のアンドロイドを、手がすべって床に落としてしまったことがある。
あの時も、娘は「パパのせいだ」と泣き出したが「衝撃耐性が悪いからだ」と責任をすり替えて、メーカーに抗議した。
そんな俺を、妻は冷たい眼差しで見ていた。
いつしか年をかさねるごとに、謝ることが苦手になった。誰か第三者に責任をなすりつけることばかり、姑息になり、上手になっていった。
パパはいつも、ごめんなさいを言わないの。
あなたは決して、真似しちゃダメよ。
妻の言葉に、娘は泣きながら頷いた。
メーカーには結局、面倒くさいクレーマーだと思われ、代替え品を元払いで送りつけられ、終わった。
娘は新しいアンドロイドを、箱から出すことはなかった。
「おどどどどどささささささあごごごごごごごごごおおお」
倒れたまま、アンドロイドの息子はうなっている。
主電源はどこだ。リセットボタンは。
生意気な口答えと、母親とグルになって俺を笑っていた娘の顔が見たくなった。
あれやこれやと口やかましく、換気扇のしたでしか喫煙を許してくれなかった妻の声が聞きたくなった。
妻も「ごめんなさいゆるしてください」を繰り返し、首をぐるぐると回転させている。
母親も「いたいいたいいたいいいいい」とつられて、全員がバグを起こしている。
嫌々ながら、俺は向き合うしかないと悟った。
満足のなかに不満を探し回り、謝ることも忘れた自分と。
裸の王様じみた、己の意地汚い姿と。
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