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俺の思い通りにしてくれない、言う通りに動いてくれない「生身の」家族を追い出して、家族の「長期リース」を業者へ依頼した。
いまごろ、頑固だとか自己中だとか揶揄される俺に邪魔されない生活を味わい、清々して、妻の実家で羽を伸ばしているだろう。
勝手にすればよいと、連絡もしていない。一度、母親から電話がかかってきたが、着信拒否をした。最近はめっきり、妻を味方するからおもしろくない。なにをおべっか使っているんだ、とたしなめたら「あんたが悪い」と一言。
ろくに社会も知らない女のくせに、とひとりごちた。
母親としてはありがたいが、人生の「先輩」とは思えない相手。
それが、母親という生き物だった。
チャイムが鳴り、出てみると「ただいまパパ」と、はつらつとした声で娘が呼びかけ、俺に抱きついた。ひんやりと、太ももが冷たくなった。
「ただいま、あなた」
「ただいま」
「パパ、ただいま」
業者に依頼した、家族が「納品」された。
依頼した設定で妻は28歳、俺と5歳違い。
息子が欲しかったかれど娘しか生まれなかったので、男の子も雇った。
息子は8歳、生意気な娘とは違って素直で、読書よりも外で遊ぶ方を好む。母親は還暦。口うるさいことは言わず、お前の言う通りだと従ってくれる。
みな、俺が描いていた理想どおりだ。家族はこうあるべきだ。
妻は夫をたてて、子供は父親を尊敬し、母親は俺を「親孝行な息子だ、優秀な息子だ」とほめ、常に俺の味方へついてくれる。
「いらっしゃ……じゃない、おかえり」
「まあ、あなたったら『いらっしゃい』なんて、どうしたの?」
にこにこと妻が笑い、娘も「おかしい」とにこにこする。
思ったよりも、再現度が高く、何ら変わらない雰囲気に驚いた。
業者に頼んだのは「生身」ではない。もちろん、本来の家族が帰ってきたわけでもない。
彼らは、ハイブリッドソーラーモードを搭載された「最新式アンドロイド」だった。
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