第1章

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「そしてたまたま朝に目覚めてまた生き返る。 そんな風に私は死を捉えています」 「では三万回生き返って、三万一回目に目が覚めなければ?」 「それを死と呼ぶのかもしれませんね」  はぁ、なんて斬新な話なんだろう。 もう私は三万回も死んでいただなんて。 この若医者、なかなか達観してるじゃないか。 「つまりはそれだけ経験してきた死を、今更恐れることはない、と言うことですか?先生 」  とわたしは訊き返した。 しかし、  「おっと、消灯時間を過ぎてしまいましたね、婦長に怒られちゃう」  と、残念ながら話はそこで途切れ、彼は白衣を嫌味なほど颯爽と翻して病室から出て行ってしまった。  翌朝、わたしは幸か不幸かまた三万何回目かの生き返りを果たした。  が、昨夜の新人医の話はよく覚えている。 これまでどの医者や看護師も言わなかったとても新鮮で明快な答えだった。 「おはようございます。朝のデータチェックです」  明るくそう言いながら定期健診に来た看護師に、昨夜の医師のことを訊きたくなった。 「え...?」  すると彼女はしばらく視線を宙に彷徨わせ、 「それ、おかしいですね。 うちは緊急でもない限りドクターが夜間に回診に来ることはないですよ。 それは山下さんもご存知でしょう?」  あ? あぁ、そうね、確かに。  そうか、やっぱりそうだったのね、あれは。  いつものように三万何回目に寝て、たまたま目が覚めなかったらそれが死ぬということなのね。 だから何も怖がることはない、と。    ありがとう。 また会えるわね。   その日のために今夜も眠りにつくとするわ。
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