知らない人には

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 男は、写真を見つめていた。  そこに写るのは、若く、爽やかな笑顔を此方に向ける男と、その男に抱えられた、三、四歳程の少女だ。  その写真を手に取って見つめる男は、写真に写る男とは対照的に、襟足が長く、少々不潔感がある。  写真をカバンの中にしまい、一つため息をつく。振り返ると、その視界には微笑ましい父親と、その娘の姿が映った。 「それじゃあパパ、ちょっと電話して来るから。良い子にして待ってなさいね」  父親は娘にクルクルと渦巻き状になったキャンディを手渡し、頭をポンポンと撫でて公衆電話の方へと急いだ。  父親が離れた途端、娘は小さく震え、唇を尖らせて涙を流し始めた。始め、男は娘が父親に会えない過剰の寂しさから泣いていると思ったのだが、どうやら様子がおかしい。寂しいと言うよりは、何かに怯えている。そんな泣き方に見えたのだ。  一方、父親の方は険しい表情で、受話器に向かって話しかけている。そもそも、コートのポケットからは携帯電話が見えている。携帯電話があるのに、何故公衆電話を使うんだ?  男はそれとなく公衆電話の近くに寄り、父親にバレないように耳を澄ます。 「いいか。五千万だ。五千万明日中に用意しないと――」  男はこれ以上聞かなかった。聞かずとも、彼が、あの娘の本当の父親では無いことが分かったからだ。  足音を殺して娘の方へとに近づくと、きょとんとした表情で男を見る娘の目の前でしゃがみ、カバンの中から、流行りのアニメのキーホルダーを差し出した。 「お嬢ちゃん、これあげるから、おじさんについておいで」  首を傾げることで、長い前髪が動き、男の片目が見えた。娘は彼の目を見ると、にっこりと笑い、大きく頷いた。 「うん!!」  男は呆れた。こんな手に引っかかるから、誘拐にあってしまうのだ。と。
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