66人が本棚に入れています
本棚に追加
またもやピンポーンと音を鳴らす。
「矢神さーん。いますかー?」
トントンとノックしても返事がない。いつもの矢神さんなら、めっちゃ静かに出てくるけど…。留守かな?
四季はドアノブをひねった。
ぎーっと音を鳴らしながら、開くドア。
開いてる?
矢神さんは用心深いから、外に居るときは、必ず鍵をしめてるはずなんだけど。部屋にいるのかもしれない。
「矢神さーん。お邪魔します」
「勝手に入って良いの?」
鈴は可愛らしく口元に手を置き、開いている手で私の袖を掴んでいた。
部屋はものすごく狭いので、玄関入ったらもうリビングだ。
のっそりと入ると、視界の端から足が見える。
よく見ると、矢神さんがベッドの下で横たわっていたのだ。
「や、矢神さん!?」
慌てて駆け寄ると、荒い息。
とても苦しそうだった。四季は、そっと首元に手を置くと、あまりの熱さに勢いよく仰け反った。
「だ、大丈夫なの?この人」
鈴は慌てすぎて、ウロウロしている。
「大丈夫だと思う」
今日の雨で、矢神さんは私を優先して自分の傘を貸してくれた。この熱はそのせいだろう。元から風邪ぎみぽかった矢神さんの熱は、悪化してしまったようだ。
どうしよう…私のせいだ。
私は自分より一回り大きい、矢神さんを背中に乗せると、ベッドに寝かせた。
後ろでは、鈴がおおーっと拍手している。
「矢神さんちょっと借りますね」
勝手にタンスをいじってはいけないだろうが、ここは緊急事態なので仕方ない。タンスを開けて、一番小さなタオルを取り出した。
それを水に濡らし、頭に乗せる。
うーん。お面が邪魔だ。
狐のお面が邪魔すぎる。どかしていいものなのだろうか。でも、彼が今まで外している所を見たことがないらしいので、そんな軽く外しちゃいけないものなんだろう。
ちょっと後悔しそうだけど、相手の嫌がる事はしちゃ駄目よね。
と、結論が出たので、狐のお面はどかさず、素顔を見ることなく冷えたタオルを矢神さんの額にのせた。
最初のコメントを投稿しよう!