ご機嫌ななめな女王様

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 香水の匂い漂う独特の空間と、シャンデリアに反射する赤や黄などの様々な色の電飾。別々の場所で湧き上がる女性客の歓声と、グラスがぶつかり合う小気味よい音。誰かがシャンパンでもオーダーしたのか、ホスト数十人が掛け声を合わせて客を魅了している。 「明良さんは先ほど出勤したばかりなので、少々お待ちください」  目立たない店内の隅へと通される。女性客が慎を目にして騒ぎにならないよう配慮してくれたようだ。  待ち時間にして五分程度だろうか。恋敵との対面に落ち着こうにも握られた拳は緊張に震えていた。  どんな事情があるにせよ、智久から手を引いてもらうために小切手を用意している。高額を提示されるとさすがに厳しいが、オーナーに借金をしてでも支払う心構えでいた。 「──お待たせしました、明良です」  息を飲んでから顔を上げると、聞き慣れた声音に驚愕した。ボーイと共に姿を現した人物を両目に捉えると、口を開いたまま慎は絶句する。髪をオールバックに固め、黒縁メガネをかけているが、変装していても見間違うはずがない。二の句を告げぬまま動揺していると、一部始終を見ていたボーイの青年が首を傾げている。そんな慎とは裏腹に、張本人である智久は堂々としている。  なにか言わなければ──。  予想外の展開に、まだ状況を飲み込めてはいないものの、なんとか言葉を振り絞った。 「ど、ど、どうしてホストなんてやってるんですか!? 智久さ────んぐっ」     
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