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元来の日本人離れした鼻の高さや均等の取れた顔立ちから、ハーフかと聞かれることも多い。ひとたび微笑めば、えくぼの浮かび上がる優男系の面持ちになる。
そんな店主である熊谷慎が、一人残ってイタリア料理専門店──ラ・レジーナの閉店作業をしている時だった。
「あの……ちょっといいですか?」
中腰になりながら、メニューの書かれた長方形の黒板を持ち上げたタイミングで、か細い声音が降ってくる。そのまま肩越しに振り向くと、白の半袖ワンピースに身を包んだ女性が立っていた。
「どうしましたか? なにか気になることでもありましたか?」
何度か通ってくれている常連だということは辛うじて分かったので、いつも通りの営業スマイルで対応する。
「はい。熊谷さんに、彼女はいらっしゃるのか気になりまして……」
「彼女、ですか……」
この手の質問は、当然ながら初めてではない。身形に気を使っている成果が如実に表れていると実感できるので、好意を抱かれることは純粋に嬉しい。
「いません。忙しさ理由にフラれましたから」
もちろん作り話だ。いないのは本当だが、専門学校卒業後に渡航準備として日夜働いてからというもの、どうも淡泊になってしまったのか特定の相手を作らなくなった。
「熊谷さんを振るなんて……。よかったら、お友達からでもいいので私はどうですか?」
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