愛しさを忘れたいから。

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長い間、二つあるつむじを横から見ていた。 遠くからでも、後ろ姿で見つけられる自信があった。 そんな日々を繰り返して。二人で言い合いをしながら季節が巡って。 『なあ』 『ん?』 何度も悩んで、意を決して口にした。 『おまえさ、大学どこ行くの』 『県外』 『へえ。じゃ、とうとう俺ら離れるのか』 『うん。そうだね』 『ま、お互い頑張ろうぜーってことで』 『……うん』 『……なんだよ』 『ん? んー……寂しくなるなーって思って』 『寂しくなんかねえよ。別にまた会えるだろ』 『……うん。そうだね。そうだよね。…………あの、さ?』 『うん?』 『ううん。……やっぱり、なんでもない』 本当はずっと、あいつに連なるものは全部全部、好きだった。 大事に心の奥にしまい込んでいた。 寂しくないなんて本気で思っていた当時を振り返る度に、思う。 もっとやりようがあったんじゃないかって。 もっと言いようがあったんじゃないかって。 もっと、もっと、素直になれたら、よかったんじゃないかって。 あのとき俺に、諦めないほどもっとはっきり恋心の自覚があったなら、 おまえが隣にいる今も、あったんじゃないのかって。
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