愛しさを忘れたいから。

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あいつと他の人と、どこか違う感覚はあった。 あいつのことだけ無性に心に引っかかった。 心に引っかかって、俺を乱して、変な後味とおかしな動悸をもたらす感情に、混乱し、惑い、切なくなった。 恋だなんて──俺はあいつのことが好きだなんて、はじめ、思いもしなかったから。 幼なじみだった。幼なじみでいようとした。 まさかそんなはずがないと何度も思って、でもやっぱり振りきれなくて、うるさい心臓を必至になだめて知らんぷりを決め込んだ。 ふいに浮かび上がる愛しさをひとりでこっそり手探りで確かめては、奥深くにしまい込んで見ないふりをした。 だって、精一杯だった。 俺なりに真面目に考えて、でもやっぱり告白はあり得なかった。 誰かを代わりにしたくもなかった。 次第に勝手に募っていくいろいろを、おそるおそる押しこめて遠巻きにするくらいしかできなかった。 いったいどう扱えばいいのか、どこに持っていけばいいのか、誰にも相談できなくて、どうしたらいいのか幼い俺には分からなかったんだ。 男女が二人でいることに対する考え方が変わっていく周りの視線に、感じるぎこちなさ。気恥ずかしさ。劣等感。不安。 俺たちは微妙な年齢を通り抜けようとしている。その自覚はあった。 世界がまるきり変わってしまったように感じられた。 ほとんど男女が混ざっていたときとは違って、あいつの友達は俺の友達なんてことはなくなってしまった。 友達も違えば、いろんなものごとに対する感じ方も、身長も、声も、急激に変化しつつあったし、それに伴って俺たちの間にかつて確かにあった親密さも、だんだんとぎこちなくなっていくようだった。 なんとなく居心地の悪い気持ちにさせられた。 中学生の自意識はあまりに強く、何より、傷つくことをあまりにひどく恐れていた。
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