愛しさを忘れたいから。

2/33
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
彼女は力のある女子で、幼なじみは(てい)のいい標的にされたのだ。 今なら分かる。 好きな人がいるからなんて馬鹿正直に言わないで、俺はもっと上手く断るべきだった。 もっと、もっとやりようがあったはずだったのに。 明らかに、どうしようもないほど分かりやすく、俺のせいだった。 俺は一度もあいつが好きだなんて言ったことはない。 男子間でよく話題にのぼる、可愛いとか美人だとか思う女子の話にだって、あいつを出したことはない。 それでも。それでもあいつに迷惑をかけた。 一緒に帰っているから、幼なじみだから──中学生の幼い俺たちに、理由なんてそれだけで充分だったんだろう。 次第に部活に行かなくなった。 俺なりに打てる手はすべて打ったつもりだけど、それでも、あいつが普通に過ごせるようになるまでに半年はかかった。 そして、あいつは最初から最後まで、もちろん今も、俺を一度も責めなかった。 学校では少し距離を置いて、登下校も別にしようとした俺と、ただ笑って隣を歩いてくれた。 好きだと自覚し始めたのは、なんでもない帰り道の途中だったと思う。 文句を言いながら教室で待って、部活が終わったら渋々一緒に帰っている体で、内心泣きそうに嬉しかったことは今も秘密だ。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!