愛しさを忘れたいから。

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高校生のとき、追いかけ追いかけられるように同じ学校に進学した。 追いかけて、追い抜いて、できれば隣に並んで、笑い合いたい背中だった。 選んだ理由は二人とも、表向きには家から徒歩で通えるからだったけど、本当はどこかで互いを意識していた……ように思う。 登下校はやっぱり一緒だったけど、特に何も騒がれなかった。 ようやく二人でいてもからかわれない年齢になったのだと、感動したりもした。 将来なりたいものはさすがに違って、大学は別々に進学した。 俺が決めた大学は県内だったけど、実家から通うのは難しくて、大学の近くにアパートを借りて一人暮らし。 あいつは県外の大学に進学。 寮は自炊なんだよー、どうしようね、困っちゃうよね、なんて言いつつ頑張っていたらしいとだけ、母親伝いに聞いている。 ときたま「うちのあのおかずのレシピ教えて」って連絡寄越すのよ、っておばさんが笑っていた。 就職も向こうでしたらしい。 ふと、考えることがある。 もしも、あの手ひどい失敗の前に──もしくは高校生の間に告白していたら、付き合えはしなくても、少なくとも、好きだって言えてたのかなって。 そしたらあいつは、なんて答えたんだろうって。 せめて、笑ってくれただろうか、って。
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