愛しさを忘れたいから。

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思えば最初から、もしかすると、区切りをつけに来たんじゃないかって気がする。 俺はあいつが好きで、でもあいつに自分から言えるほど過去の俺を許せてもいなくて、結局ずっと、眩しすぎる思い出を持て余していたから。 俺もあいつも、そろそろ区切りをつける時期だったのかもしれない。 何か契機が必要だとしたら、結婚は一番分かりやすくて明確だ。 もう手が届かない状況にするのは、諦めるしかないようにするのは、長く引きずった片思いの、訣別の合図に相応しい。 今日の何もかもがあいつの精一杯だったとしたら、俺たちはすれ違いすぎたんだろう。 おまえ、相変わらず抜けてるよな。 それとすっげー不器用だよな。引き際下手くそすぎかよ。 ひどい置き土産を残されたって、おまえがすり抜けていったら意味がないのに。 たとえ今さら思い知ったって、どうにもできないのに。 これでも俺もさ、ちゃんと、終わらせなくちゃとは思ってたんだよ。それは本当なんだけどなあ。 なんだか俺だけ置いてけぼりだ。 あいつはきっと、とびきり嫌なやつになって、もう百年の恋も覚めてしまうくらいきっぱり嫌われて終わりにしようとしたんだろう。 でもさ、嫌なやつになろうとするなんて、お人好しなおまえには全然向いてないよ。 馬鹿だな。相変わらず不器用なやつ。 「……ほんと、何、言ってんだよ」
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