愛しさを忘れたいから。

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* なんとなくそのまま連絡を取れずに日常が始まってしまって、彼女とのことすべてには、整理が追いついていない。 ある日、仕事から帰ると、さびた郵便受けに結婚式の招待状が来ていた。 それであいつの今の住所と名字を知った。 今さらすぎる。 うん、これは全然勝ち目がないな俺。無理無理。 名字は相手に合わせるらしい。 連絡先を一つずつ変更して、招待状を眺めて、カレンダーを見遣って。 行こうかな、と思った。 ……この恋はまだほんの少しだけ覚めていない。 俺があいつを諦めきれていない。 性懲りもなくいまだに若干燻っているのは、自分が一番よく分かっている。 でも、だけど。 俺は幼なじみを大切にしたい。何より、幸せになってほしい。 俺とあいつは幼なじみだ。それで充分だろう。 ──この、最後まで上手く形にならなかった恋は、それでもちゃんと終わらせなければいけない恋なのだ。 行こう、と思った。 ボールペンを握る。 ……行こう。行って、お幸せにって祝って来よう。 大丈夫だ。 幸せそうな笑顔を、見たら。 あいつが選んだ相手の隣で、嬉しそうに笑っているのを見たなら、きっと。 俺は、この長い恋の終わりを見つけられるだろう。
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