愛しさを忘れたいから。

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あのときからもう、あいつはずっと隣にいてくれるなんて、馬鹿みたいな幼い夢は見ていなかった。 そんな都合のいい甘い夢は見てはいけない気がしていた。 ……でも、もしかしたら、気持ちを言葉で型どったら、叶う夢だったかもしれないのに。 日常を壊さないようにってひたすらにそればかりを考えて、穏やかな関係を崩すのを惜しんだのは、臆病ゆえだった。 へらりと被る、なんでもないような仮面の下での不恰好な葛藤に気づかないふりをして、あいつももの言いたげに黙っていた。 二人とも何も言えなかった。何も言わなかった。怖かった。 距離を詰め損ねたら、それこそ嫌われてしまう予感がして。 今の関係が崩れたら嫌だし。 大丈夫大丈夫、どうせこいつに彼氏なんかできないと思うし。 ぎくしゃくしてしまうよりは、きっとこのままの方がいい。 ……そんな、後づけの言い訳をいくつも重ねて思いに蓋をした。 俺たちは幼かったのだ。 別れを知らなかったのだ。 別れの後の寂しさや引きずる思い出を想像はしてみてもいつも曖昧で、そのまま、まあきっとなんとかなるようになるんだろう、なんて軽く考えていたのだ。 だから。 高校卒業の日、俺たちは、何も言わないまま離れた。
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