愛しさを忘れたいから。

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CDを貸し借りした。イヤホンを半分こした。 漫画を共有した。ゲームを二人で割り勘して買った。 忘れ物をしたときは一番に借りに行った。部屋に上がり込んでとりとめもない話をした。 好きなものも嫌いなものも、いつだって半分こしてきたからなのか、俺とあいつはよく似ていて、好みまでほとんど同じで、半身のようなやつだった。 地域全体だともう少しいるけど、この地区には俺と同い年のやつがあいつ一人しかいない。 少子化と過疎化が急進していた地域だ、幼なじみと呼べる相手はその女の子だけ。 ずっと傍らにいたその子が好きだった。 兄弟みたいな、それでいて他人の、大切にしたい存在だった。 よく笑うところが好きだった。 少し汚くて丸い字は読みにくくて仕方なかったけど、何かあると置いてある一筆箋の、律儀に一番初めに必ずある、あいつの字で書かれた俺の名前が好きだった。 どちらかが傘を忘れると、押し合いへしあいして競うように一つの傘を奪い合いながら帰ったのも、重なる影も、揃う足音も。 忘れ果ててしまえるものでもないゆえに、今さら言うまでもないあのころは。 …………ああ、いとしくも、俺一人のものだったのだ。
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