愛しさを忘れたいから。

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『それ美味しい?』 『まあまあ』 『一口ちょーだい』 『断る前に飲むなよ。まだ許可してねえよ』 『ほんとだー、まあまあだねこれ』 『そうかよ……』 『あ、私のもいる?』 『いるかアホ! はー、お前は本当に……』 『ためいきつくと、幸せが逃げるんだよ?』 『誰のせいだよ、誰の!』 飲み物でもお菓子でも、一口交換するのは普通に当たり前だったけど、ちゃんと許可は取ってほしかった。 あとアイスは一口って言って半分以上奪うのをやめてほしかったし、コーヒーはブラックが飲めないからって、俺がわざわざブラックにしたのにドバドバ砂糖とミルクを入れるのもやめてほしかったし、間違ってブラック缶を買ったら俺に押しつけてくるのもやめてほしかった。 好きだから、まあ、別にいいと言えばいいんだけどさ。 『ねえ、君の幼なじみどこにいるか知らない?』 『いや、知らない』 『え、知らないの!?』 『知らないけど。むしろなんで知ってると思ったんだよ』 『ほら、二人ともいっつも一緒にいるから』 『んなことねえし……!』 でもまああそこじゃねえの、って一応言ってはみてた。 それでほんとにあいつがそこにいると、流石幼なじみだねえって言われまくるんだけど、全然流石でもなんでもない。あいつが分かりやすすぎるだけだ。 その証拠にあいつは俺の居場所が分からないらしくて、連絡がすぐ取れるようにって、高校生になってから買ってもらったスマホの連絡先を一通り交換した。 なんでもないくせにしょっちゅう電話をかけるものだから、あいつは途中から電話が安いプランにしてたっけ。 別にメッセージアプリでもいいのに、なんでか電話が好きで、隣にいるのに電話をかけようとしたときには流石に爆笑したのを覚えてる。
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