愛しさを忘れたいから。

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『はい。バレンタイン。友チョコっていうか義理チョコっていうか、幼なじみチョコだから』 『何それ』 『お返しは十倍で』 『は!? せめて二倍にまけろよ』 『えっ、お返しくれるの!?』 『やるに決まってんだろ。俺はそんなに不義理じゃねえ』 『そ、そっか。じゃあ三倍で』 『嫌だ。二倍』 『さんば』 『二倍』 『けち!!』 『……だって三倍って何が三倍か分かんねえもん。二倍はおまえが好きなチョコだろ? 三倍はなんだよ。ギフトカードとか?』 『全然違うよ情緒がないなー! 三倍はねー、ご飯食べたりとかお出かけしたりとかしたい。おごりで』 『…………は?』 『お出かけ』 『俺のおごりで? どこで?』 『おごりで。駅前のお洒落なお店で』 駅前って高いやつしかないじゃんか、と思った。 でも、まあ。 『……ホワイトデー、空いてんの』 『……あいてる』 答えなんか、最初から決まっている。 『ねえ、雷怖いんだけど』 『あ、そう。で?』 『いや、雷怖いんだけど』 『で?』 『……隣、いて、ください』 『はいはい』 はー、全く、しょうがねえな。 『……ためいきつくと幸せが逃げるんだよー』 『はいはい。知ってる知ってる』 いいから大人しくしとけ。
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