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死後の世界にも面倒な手続きがあるだなんて思いもしなかった。いや、それ以前に死んだ後があることを考えもしなかった。
だってそうだろう。
自分のやりたいことーーもちろん全てではないがーーをやって、おそらく天寿を全うしたのだ。
さらに言えば、一人で死ぬと思っていたが、弟夫婦や教え子に看取ってもらえた。
……まあ、確かに定年まで届かずに死ぬとはいささか早いとは思う。
それを差し引いても、充実した生だった。
煩わしいことから解放された。
それが実際はどうだ。
地上の役所と大して変わらない光景が目の前に広がっているではないか。
違いといえば、だだっ広いことと、恐ろしく慌ただしいことくらいだ。
『ああ、そこのあなた!』
声の方を見る。そこには中肉中背で肌の赤い男がいた。パンチパーマから覗く角、虎柄の腰巻。分かりやすく鬼である。
『転生課はこっちですから、列守ってくださいね!』
そう言って別の列に私を並ばせると、バタバタとどこかへ走っていってしまった。
列が進むと白い扉が見えてきた。"6"と書かれた扉に順々に入っていくが、誰も出てくることはない。なにか良くない場所なのだろうかと勘ぐったが、もう死んでいるのだからどうでもいいかと思い直す。
私の番になった。扉はひとりでに開いてくれた。
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