第3章 引鉄

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「挨拶はいいからさっさと降りてこい刹那。黙って素早くカルテを書くのがお前さんの仕事だろうが」 「………………(しゅんとした様子で頷く)」  ストンという最小限の着地音と共に、天井からぶら下がっていた白髪の白衣少女──刹那は未散達と同じ床に降り立った。 (ますます忍者っぽいな)  宙ぶらりんの時は分かり難かったが、白衣の少女はわりと小柄だった。この空間にいる誰よりも身長が低い。マスクや白衣で隠れてはいるが、体つきもどこか幼さが残っており見た目だけなら中学生でも通用するだろう。 「ま、こいつは俺の手足みてえなモンだから特に気にする必要はねえぞ」  いきなり天井裏から現れた白髪白衣のマスク少女を意識の外に置く、というのは少々無理があるのでは? と未散は微妙な表情を滲ませる。  中年男性と小柄少女という組み合わせ。微かに犯罪臭もするが、初対面の二人組の関係性など未散の知ったことではない。であれば、淘汰の言葉通り気にせず風景の一つとでも思っておくのが賢明な判断だ。 「さて、そんじゃあとりあえず血をちょいと頂くぞ。まさか高校生にもなって注射が怖いなんて言わねえよなあ?」  その言葉を聞いて反応したのは未散ではなく、その隣に立っていたミサキだった。 「ぷっ、アッハハ! 灰谷センセー、それはありえませんヨ。だってこの子、桐村さんに牙を剥いて平然としてたんですから! 今さら注射なんて屁みたいなモンですって!」  よく分からないツボに入ったのか、ミサキはケタケタと笑う。  そのまま笑い死ねばいいのに、と未散は思いながら注射針を迎え入れる為に制服の袖を捲り、白い細腕を差し出す。 「ゲエ、あの女狐にかよ。お前さん、よく五体満足でいられたな」 「はあ……」  何故か心配そうな目を向けられて女子高生は困惑する。あの京都訛りの日本刀バズーカ女に銃口を向けたことの重大さをイマイチ理解していない様子である。  その間にも淘汰は未散の右の二の腕あたりに駆血帯を巻き付けていた。そしてそれに応じるかのように女子高生は手をグッと握る。 「お前さん、名前は?」  淘汰は少女の腕をアルコール消毒しつつ訊いた。 「朱咲、未散……です」 「ミチルか。文字はどう書くんだ?」 「朱色が咲くで朱咲、未来に散るで未散」  そのやりとりを片隅で刹那が機械のように素早く手元のカルテに書き記していた。 「咲いて散る、か。自己完結した名前だな」
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