第5章 執行

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「……じゃあ、まず一つ。榊葉夜翅(さかきばよはね)について知ってる事、教えてくれない?」  未散は人差し指を立て、凪沙に問う。  そんなストレートに訊いちゃいますか、とミサキは未散の図太さというか目的の為なら一直線な在り方に感心しつつヒヤヒヤする。  初恋相手である未散に話しかけられ、必要とされている事に至上の喜びを感じつつ凪沙は素直に答える。 「えっとねえっとね、そうだなあ……一言で言うなら“おとなしそう”、かな? ぶっちゃけ陰キャっぽいっつーか地味〜で根暗なカンジ?」 「……」  まさか見た目の印象についてを答えられるとは思っていなかった未散。思わず返す言葉が即座に出てこない。  もっとこう、どういう能力を持っているのかとか、一緒にいた仲間とやらはどんな奴らなのかとかを知りたかったのに、とんだ拍子抜けだ。  外見の情報などは隣にいるミサキ(バカ)からいつでも訊くことはできる。少なくとも凪沙よりは榊葉夜翅と接触している時間は長いのだから。 「──ぷっ、ふふ。アッハハハハ!」  すると突然、ミサキが耐えられないとばかりに笑い声を上げた。 「……」 「ちょっとあんた、ナニ笑ってんのさ?」  未散は可哀想なモノを見る目だけで訴えていたが、凪沙はバタフライナイフの切っ先をミサキに向けつつ思ったことをそのまま口に出した。 「あーおっかし……いやはやすいません、陰キャだの根暗だのひっどい言われようだなあと思って、笑うの我慢できませんでした……ごめんなさい、気にせず続けてくださいな」  嫌いなヤツが他人に貶されてざまあみろ、いいぞもっと言えみたいな感覚なのだろうか? と、未散は適当に推理をする。  それはさておき、ひとまずここで他人による“榊葉夜翅の第一印象”という情報を手に入れたわけだが、やはりそれだけではまだまだ足りない。  もっと有力な情報が必要だ。 「……じゃあ榊葉夜翅の能力とか、どこに住んでるとかは?」 「さあ? ぜーんぜん知らない」  凪沙は首を傾げながら即答した。  まあ普通に考えれば大罪人がそう易々と自分の素性を明かすわけがない。でもこれじゃあ埒が明かない、と未散は深い溜息を吐く。 「ならあんたは榊葉夜翅に何を言われて、何をされたワケ? 忘れた、とか言わないでよ」 「何を言われて何をされた、かあ。んー、あたしがヨハネ? に会ったのはつい最近でさ。あたしが夜フラーっと買い物がてら歩いてたらいきなり“キミはいま何か困ってるね”って声をかけられてさ。一瞬、ヤバ! 不審者!? って思ったんだけどまあ困ってるちゃあ困ってたからついハイソウデスって答えちゃってさ」  悪質なキャッチセールスに引っかかるタイプですねこの子、と思いながらミサキは凪沙の言葉を静かに聞き入れる。 「……で? そのあとは?」 「んー……悪いけどそっからの記憶が曖昧でさ、よく覚えてないんだよね。気が付いたら自分の部屋にいて、そんで時々他人の心の声が聞こえるようになってたっつーか」 「……あっそう」  失望したかのように生気のこもっていない声で未散は言いつつ、隣にいるミサキに目を向ける。そして小声で問う。 「記憶を弄られてるのかな」 「うーむ、恐らくそう考えるのが妥当でしょうね。“(まじな)い”を使えばある程度の記憶操作は可能ですが、前にも言ったように“呪い(それ)”は“純血種(シン・ブラッド)”だけが扱える技術。榊葉夜翅は“準血種(セミ・ブラッド)”なのでその線はナイ。となれば──」 「……固有能力、ってコトか」 「ええ、ですが──」  ミサキは何かを言いかけたが、 「な〜にコソコソ話してんのかにゃ〜? つーか距離が近いんだよ茶髪ゥ! 未散の半径3メートル以内に近付くなっつーの!」  声を荒げた凪沙の横槍によって、ミサキの言葉の続きは遮られた。  そして未散は小さく溜息を吐いてから、顎でミサキに指図する。“ややこしいから下がってて”──と。それを察した栗色髪の吸血鬼は静かに女子高生から距離を取った。 「ハハハ♪ 分かればいーんだよ分かれば」  凪沙は満足げにそう言った。 「……じゃあ凪沙、次が最後の質問」 「ん? なになに? あたしに答えられるならどんどこ答えちゃうよ〜!」  最後の──最期の質問。  これ以上、凪沙から引き出せるモノは無いと未散は判断した。だから最後の最後に、素朴な疑問をぶつけることにしたのだ。 「どうして凪沙は私に襲いかかってきたの?」  未だに未散は凪沙の襲撃理由が分からずにいた。榊葉夜翅の差し金か、あるいは自分と同じで“同類殺し”の為か。  それとも──。
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