112人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
「アナタは吸血鬼になってしまったんですよ、未散」
普通をこよなく愛する未散にとって、それはあまりにも残酷な宣告だった。
「………………」
少女はもはや言葉も出ない。
立て続けに彼女に降りかかった“異常”。そしてとどめに突き付けられたのは、自分が人間ではなくなったという事実。
放心状態の未散を見て、ミサキは溜息を一つ吐いてからすっくと立ち上がる。
「まあ、いきなりの出来事で混乱するのは分かります。分かりますけど、本当の事なんです。ごめんなさい」
ミサキの謝罪は“未散を吸血鬼にしてしまった事”に対してのものだったが、その本人の耳には全く届いていない様子である。
「ワタシはちょっと外の空気を吸ってきます。あ、あとコレ、よかったら食べてくださいね。ワタシがアナタを吸血した時にダメにしてしまったお詫びです」
ガサ、とミサキはビニール袋を置く。中身はコンビニで買ったケーキだった。
「まさかその恰好で買いに行ったの?」
と、普通ならツッコミを入れるところだが、今の未散にそんな余裕は無い。
「それじゃ。──ハッピーバースデイ、未散」
そう言い残してミサキは寝室から出ていく。
彼女の言葉を聞いて未散はようやく放心状態を解除した。
「──ああ、そっか。今日、誕生日だったんだ、私」
恐らくミサキは未散の学生証を見た時に彼女の誕生日も知ったのだろう。
時刻は二十三時半。一人だけの誕生会はまだ間に合う。
吸血鬼としての誕生日でもあるわけか、と少女は自虐的な微笑を浮かべる。
肉体的なものでも精神的なものでも、疲れた時は甘い物に限る。
もう諸々の面倒な事は明日の私に任せよう。そう決めた未散はレジ袋からケーキを取り出す。
「……なんで抹茶系をチョイスするかな」
†††
その日、少女の人生は終わり、そして新たに始まった。
十七歳の誕生日ケーキは少しほろ苦い。
最初のコメントを投稿しよう!