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幼い頃から、朱咲未散は目立つことを何よりも嫌っていた。ゆえに彼女は“平均的”であることに固執する。
なるべく穏便に、できる限り普遍的に、可能な限り平々凡々に、荒波を立てないように、平均台の上を行くように、陽の光を避けるように、宵闇に生きるように──未散は自分にできる最大限の“普通”を実現させた。
テストも全教科平均点になるように、クラス全員の点数を予測し、計算し、その上で試験に臨んだ。運動もそれなりのレヴェルになるように努めた。何一つ際立った部分の無い──打たれる杭にならないように細心の注意を払って生きてきた。
だが、普通であることは未散にとって“目指すもの”ではなく単なる“調整”に過ぎなかった。
本来なら未散は頭脳明晰・スポーツ万能、非の打ち所の無い秀才を絵に描いたような人物なのだ。ならば何故、彼女は“普通”に執着するのか。答えとしては単純なもので、ただ“目立ちたくないから”だ。
表舞台に立ちたくない、注目の的になりたくない、輪の中心なんてもってのほか。とにかく目立つという行為そのものが、未散にとってはNGなのだ。
だからといって縁の下の力持ちになろうという気もさらさら無く、いてもいなくても変わらない──その辺に落ちている小石のようなポジションこそが心地良いと彼女は真剣に思っている。
“普通”を演出する為にわざと自分の才能を抑制し抑圧させているその在り方は、お世辞にも“普通”とは言えない。それが、普通である事を望む朱咲未散が抱える最大限の異常なのかもしれない──。
†††
「あっ」
そういえば、と下校中の未散は思い出したかのように鞄からスマホを取り出した。
「六月九日か。せっかくだしケーキでも買って帰ろうかな」
今日の日付を確認し、何か意を決したような表情で未散は駅前へと歩を進める。家とは方向が違うが、好物である甘いものの為なら苦ではない。
『駅前にできたケーキ屋、超美味しいんだよ~! 特に苺のショートケーキがズバ抜けて美味い!』
とは、未散の同級生である蒼乃凪沙の談。
「凪沙はショートケーキをオススメしてたけど今日はチョコレートの気分かな」
どれくらいの種類があるのか、値段はいかほどなのかと考えながら少女は歩く。
なにしろ初めて行く店だ、多少緊張するのが普通というものである。そう、“普通”。
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