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「ありがとうございましたー」
買い物を済ませてケーキ屋から退店する未散と凪沙。
結局、未散が選んだのは値段も見た目も普通でスタンダードなチョコレートケーキ。それに対して凪沙はモンブランやチーズケーキ、さらにはロールケーキと何やら纏まりの無いチョイスだった。
家族の分だとしたら、凪沙の家は三人家族なのだろうか──と未散は考える。
「ウチはママとお姉ちゃんとあたしの三人家族なんだよね~。言ってなかったっけ」
「えっ。あ、ああ……そうなんだ、初耳」
顔に出ていたのかな、と未散は自分の頬をむにむにとこねる。
未散と凪沙の関係は中学時代からのもの。とはいえ特別に仲が良いわけではなく、お互いの家族構成や誕生日すら知らないというそれほど深くない繋がりだった。
出会いも別に劇的なものではなく、ただ単に同じクラスで席が前と後ろだったというだけ。いつの間にか喋るようになって今に至る。互いの家に上がった事も無ければ、休日に遊びに行く事も無い。本当に学校にいる間のみの軽い関係。
しかし、未散が凪沙に対して感じているごく僅かな特別感を敢えて挙げるとするならばそれは“学生生活の中で唯一、自分よりも席が前だった人物”だという事だろう。
彼女達が同じクラスになったのは中学一年の時のみ。つまりその年だけ未散の出席番号は二番だったのだ。
それ以来、二人は同じクラスにはならなかった。しかしまだチャンスは一度だけだが残されている。
高校三年。三年生ではなんとしてでも凪沙と同じクラスにならなければと未散は神頼みする勢いだった。
なにせ同学年の名簿を調べても“朱咲”より前に来る名字は“蒼乃”ただ一つ。どうしてこう“相生”とか“藍川”みたいな姓が無いのかと未散は神を恨む勢いだった。
ともあれ、僅かでも可能性があるならそれに賭けるしかない。蜘蛛の糸でもなんでも掴んでやる、と未散の意志は非常に強かった。
「女ばっかりの家族だと色々気楽で良いんだけどさー、なーんかママが年内には再婚を考えてるらしいんだよねぇ」
「へえ、そうなんだ。おめでとう、って言った方がいいのかな?」
「さあね。まあでもそうなったらママのお相手があたしにとって二人目のパパになるってわけだね」
「ふうん」
と、興味無さそうに相槌を打つ未散。母親の再婚なんてイベント、自分は絶対に体験したくないなと少女はしみじみと思った。
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