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数十秒の高速下降の後、エレベーターはその動きを緩やかに止めた。
そしてゆっくりと鉄の扉が開く。すると、そこには一人の男が立っていた。
見た目は若く、恐らくミサキと大して年齢は変わらないだろう。身長も一見するとミサキとほぼ変わらないように見えるが、男は猫背ぎみなので背筋をピンと伸ばせば175cmぐらいにはなるはずだ。着崩した黒いスーツと、生気の宿っていない眠そうな目のせいでどこか元気の無さそうな印象を受けるが──、
「おっと! 誰かと思えば鬼塚じゃねえの。ハハ、んだよビックリさせんなって」
見た目に反してフランクな言動の男に、ミサキは少し呆れたように言葉を返す。
「アナタが勝手に驚いてるだけでしょーが。あとその呼び方やめてくださいって何回言えば分かってくれるんです?」
「まーいいじゃねえの。お前がそうやって反応してくれるって事ァ、呼び名としてはちゃんと機能してるってことだろ」
「そういう問題じゃないんですケドぉ~」
腰に手を当ててジト目で文句を垂れるミサキだが、本気で嫌がっていない様子なので半分諦め気味なのだろう。
そんな栗色ヘアの吸血鬼の後ろで、未散は二人の何気ない会話を黙って観察していた。ここにいるという事は目の前の男も十中八九、吸血鬼なのだろうと推理する。
突き刺さる視線に気付いた男は、ニヤリと不敵な笑みを未散に返す。
「ん。初めて見る顔だけど鬼塚と一緒にいるって事ァあれか、お前が灰谷のおっさんが言ってた“新入りの現役JK”か」
「はあ……」
よく分からないが、どうやらここに来る前から少なからず自分は話題になっているのかと思うと、目立つことを嫌う少女はいきなり憂鬱な気分になった。
男は未散の頭のてっぺんから爪先までを雑誌を流し読みするように一瞥する。
「まァ見た感じ大丈夫そうだし、不安になる事ァないぞ。“胸”ェ張って歩きな新入り」
なにやら含みのある台詞を言い残して男はエレベーターに乗り込む。そして入れ替わるように二人の女吸血鬼は鉄の箱から降りた。
扉が閉まるまで男は軽薄にひらひらと二人に手を振っていた。
数秒、間を置いてから未散は何気なく口を開く。
「──オニヅカって、あんたの名字?」
「ウ゛ッ、そう来ましたか……。先にあの人の事を訊いてくるかと思ってたのに……」
痛い所を突かれて狼狽えるミサキをよそに、未散は不思議そうに首を傾げる。
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