第3章 引鉄

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 吸血鬼の吸血鬼による吸血鬼のための組織、“Vamps(ヴァンプス)”。  その規模は非常に大きく、いくつかの支部に細かく分けられ全世界に点在しており、日本には東日本と西日本にそれぞれ五つ、合わせて十の支部が存在する。  そして、ひょんなことから普通の人間から“準血種(セミ・ブラッド)”の吸血鬼となってしまった朱咲未散(あかざきみちる)が精密検査のために訪れたのは、その十ある内の一つ──“Vamps”日本第二支部である。  公にその存在を晒せない生き物(化け物)が立ち上げた組織というイメージが先走り、ヤクザやギャングのような無法地帯の如き荒んだ環境を想像していた未散だったが、それとは裏腹に組織内は役所のようにきっちりとしていた。  ふと、未散は前を歩いている“純血種(シン・ブラッド)”の吸血鬼──ミサキの言葉を思い出す。 『“Vamps”って日曜日はお休みなんですよねぇアハハ』  なんとなくだが、未散は納得した。吸血鬼だって吸血鬼(自分達)のために仕事しているし、日曜日ぐらい休みたいのだろう。  おかげでこうして組織に来るのが月曜日になってしまったわけだが。  先が見えないほどの長い通路を歩きながら、未散はなるべく首を動かさずに眼球だけで周囲を観察する。 (隠滅課……)  天井からぶら下がっているプラカードに思わず目が行った。そのまま視線を下ろすと、なにやら電話対応に追われている若い女性や書類と睨み合う壮年の男性の姿が見て取れた。本当に、普通に公務員が勤めているように見える。 「気になりますか?」  歩きながら、ミサキは後ろにいる未散に話しかけた。 「……別に」 「沢尻エ○カですかアナタは。全く……ここら一帯は隠滅課という部署でして、文字通り証拠隠滅に関するお仕事を請け負うところです。吸血鬼(我々)神秘性(ヒミツ)を守る最後の砦、とでも言いましょうか」  頼んでもいないのに説明しだすミサキに、未散は特に返答もせずに鬱陶しげな視線を前方を歩く背中に突き立てる。 「ホラ、こないだ未散のマンションの修繕作業に来てくれた子いたでしょ、円巴(まどかともえ)きゅん。あの子、隠滅課の所属なんですヨ」 「ああ──あの男の子ね」  未散は記憶に新しい名前を聞いてすぐに二日前の出来事を思い出す。  なんらかの固有能力を使い、吸血鬼が暴れた痕跡を綺麗サッパリ隠滅した男子小学生の吸血鬼のことを。
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