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そう考えると、未散は肩の荷が下りたような気分になった。
いつも胸の片隅辺りにあった暗いモヤモヤが一気に晴れた気がした。
「蒼乃じゃない凪沙も、どうでもいいや」
今この時から未散の中で蒼乃凪沙という存在は“友人”からただの“同級生A”へとカテゴライズされた。彼女にとって自分よりも席が前にならない同級生はみんな同じなのだ。
私は今までただの同級生一人に微小な可能性を感じてそれを信じていたのか、と思うと未散はなにもかもが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「あーあ。早く帰ってケーキ食べよ」
日も落ちて辺りは夜の光が灯り始めていた。
夜の街で女子高生がたった一人で歩いているなんて、普通じゃない。
そう思った未散は、軽い足取りで帰路についた。
†††
未散宅へ一番の近道をするには人通りがほとんど無い高架下を通る必要があった。
明かりもほぼ無く、不審者が出てもおかしくない雰囲気のスポットだ。万が一そのような輩に遭遇しても、未散は護身術で撃退できるので特に問題は無い。
無いのだが、少女の足は突然ピタリと止まった。
本当に不審者が出たわけではない。
──人が、倒れているのだ。
「うわ」
正直、未散は迂回しようかと思った。
でもこの場合は助ける方が普通だろうか、と考え直した。
(それなりの応急処置ならできるけど)
恐る恐る近付きながら、彼女はすぐに救急を呼べるようにスマホを取り出しておく。
近寄ってみると、倒れているのは女性だということが分かる。
とりあえず意識の有無を確認すべく、未散はうつ伏せ状態の女性に声をかける。
「あのー、大丈夫です」
か、と言い終わる前にここで彼女はようやく異常事態に気付いた。
暗くてよく見えなかったが、女性は腹部辺りから大量の血を流していたのだ。
「ちょッ、勘弁してよッ……!」
思わず後ずさりする未散。
よく見たら着ている服もボロボロだし、通り魔か何かに襲われたのだろうか。
意識を確認するまでもない、今すぐにでも救急車が必要だ。その後は警察にも電話をかけなければ。
(第一発見者だとイロイロ事情聴取とかされるのかなぁ)
早く帰ってケーキ食べたかったのに、と少女は気が進まない感じでまずは119番通報をしようとしたその時、
「ァ──あなた……どん、だけ冷静なんですか……」
死にそうな声と共に、倒れていた女性がゾンビのように起き上がった。
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