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Prologue 0
『 愛してる 』 ・・・誰だろう?
目が覚めた。
いつの記憶だろうか・・・妙に現実感がある。
今日も仕事だ。電車で職場まで向かおう。
私は病院で薬剤師をしている至って『普通』の中肉中背の男性である。
顔はそんなに悪くないと思うが、イケメンと言われる程でもない。
頭は大学を出て病院に勤め、患者に薬のことを教えるくらいだから、そんなに悪いわけでもないが、天才と言われる程でもない。
趣味は、音楽と百人一首「かるた」を軽く嗜む程度である。
年齢は59歳。もうすぐ定年である。
家族は妻1人と子供が2人。愛人はいない。
これも普通といえば『普通』か。
・・・・・
そんな普通の生活を送っていた私だったが、病院から帰る途中、急に胸が苦しくなり倒れた。
私は救急車で私の勤めている病院に運ばれ、緊急手術をすることになったようである。
・・・・・
この瞬間から私は霊体となり、自分の姿を客観的に見ていた。
定年間近ということもあり、それなりの役職に就いていたためか、かなり大騒ぎしている。
客観的に見ていると、なんかうれしい。
しばらくすると、妻や子供がやってきて号泣している。
病院に勤めていることもあるだろうが、あまり死に対しての恐怖はない。
人生約60年ともなると、だいたいのことはしてきたし、あまりやり残したことはないつもりだ。
でも、健康にはけっこう気を使っていたし、心臓病は患っていないし、あの胸に矢が刺さる様な痛みはなんだったんだろう?
やがて死を迎える時が来たようだ。
私が日頃お世話になっている医師や看護師、臨床工学士さんが必死になって心肺蘇生をしてくれたようだが、意識は戻らなかったようだ。
『 みんな、ありがとう 』
聞こえないと思うが、私はそれを口にした。
このセリフどこかで・・・
家族やスタッフと目があった気がした。
・・・・・
私は、身体と精神の糸が切れたように、天界に引き寄せられていった。
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