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私は、極上の品が新たなコレクションに加わって大満足だ。しばらくは外観を眺めてはひとりで悦に入っていたものだ。
しかし──一週間もすると、とある衝動がこみ上げてきた。
中身を見たい。覗き込みたい。
ある日の夜に、私はあの万華鏡を手に取った。溶岩のように煮えたぎる情動にあらがいきれなくなり、万華鏡を覗き込んだ。
「おおおおっ……」
採光部分のガラスの色に由来するのか、全体に深い青の世界が広がっている。そこにちりばめられた星々は、どれひとつとして同じものはない。いずれもきれいな形ではなく、いびつだったり曲がりくねっていた。だが異形の星々も、三枚の鏡によって反射されると美しい紋様を描き出す。極彩色の星たちは、万華鏡をまわすたびに離合集散し、ひとたび限りの幾何学模様を形成していた。
「持ち主が変わるたびに、星が増えていったそうだが……」
もしかしたら、星のひとつひとつが持ち主の魂なのかもしれない。この万華鏡は覗き込む者の魂を吸い取って、星を増やしているのかもしれない。
そんな妄想がよぎるほどに、万華鏡の中の世界は魅力的だった。
「これは……素晴らしい。目が離せない」
私は、いつまでも万華鏡を覗き込んでいた。
三枚の鏡と無数の星々によって描き出される光景を、それこそ寝食を忘れて眺めていた。
万華鏡をまわす指は次第にやせ細ってゆく。見開かれたままの眼は血走っている。いつしか、室内には屎尿の匂いが充満していた。
私の命の炎が小さくなってゆくにつれて、三枚の鏡の中には新たな星が形づくられていった。
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