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カレンダーから視線を剥ぐように、室内をぼんやり眺めていると、日差しが差し込んでいるところを、キラキラと埃が落ちていくのが目に留まる。
それはとてもゆっくりと落ちて行き、光りの差す場所を通過すると姿を消した。
ぴぴぴっとキッチンからタイマーの電子音がして「翔平? とんかつ揚がったから、そっちに運んでくれる?」と華から声がかかる。
「ああ、うん。今行くよ」
*****
二人は高校の同級生だった。
互いに違う地方の大学に受かった時、離れ離れになることを恐れて、想いを伝えあった。
始まった時から遠距離恋愛だったけれど、各駅列車でも一時間ちょっとの距離だったので、毎週末、翔平は華のアパートに訪れていた。
会わない時間が長かったわけじゃない。
だから、華が秘密を隠し持っていることに気がついた時、翔平は酷く落胆したのだった。
気がつかれないと思った?
そんなに鈍感だと思った?
もう五年も一緒に居たのに。
この勝手知ったる華のアパート。
テレビとテーブルとベッドでいっぱいの、この小さな部屋で、どれだけの時間を二人で過ごしたと思っているのか……。
始めに感じた憤りは、やがて落胆へ、そして決意へと変わって行った。
翔平は小さなため息を吐いてから、キッチンへと足を踏み入れた。
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