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秘密
華は三年前に行った京都旅行の際に買い求めた、揃いの箸で食事をとる翔平に、視線をちらっと向ける。
いつになく翔平の口数が少なくて、不安になる。
揚げ物好きな翔平の為に、どんどん増えて行った揚げ物のレパートリー。
その中でもとんかつは得意中の得意で、今日もサクサクの衣を齧ればじゅわっと溢れて来る肉汁に、我ながら上出来だと華は思っていた。
とんかつに添えられたレタスにも、翔平が好きだと言ったドレッシングをかけてある。
それなのに、いつもなら食べながら「美味しい」と何度も笑いかけてくれるはずの翔平が、ほとんど口を開かない。
おずおずと「えっと……美味しくなかった?」と問えば、「いや、そんなことないよ」と翔平が返えしてくる。
そして、翔平は寡黙なまま食事を終えて、食器を重ね始めた。
まだ食べ終わって居ない華はそこで箸を止めて、持っていた茶碗をことっと置いた。
「今日、なんか変だよ」
二人は喧嘩をすることもある。
例えば、ちょっとだらしない翔平が、脱いだ靴下を置きっぱなしにしたり、使ったままのティッシュをテーブルに放置した時。
その都度注意する華と、何度も言われて不貞腐れる翔平。
そう言う些細な事で喧嘩をしては、仲直りをすることの繰り返しだった。
でも、今日はそう言うやり取りはしていないし、翔平は部屋に来た時から様子がおかしかった。
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