佐藤さん

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 ***  結局、佐藤さんは「佐藤」ではなかった。名札を見るとやっぱり、「矢島」と書かれていた。  藤に思い入れのあった矢島さんは、私の名前を知って、ふとした思いつきで「佐藤」を名乗ったのだろう。そして、そのロマンチックな思いつきをどうしても私に示したくなって、あすこへ私を誘ったのだろう。  あれを聞いた私は心強くなって、前向きになれた。根拠はないけれど、なにがあっても大丈夫だと思えるようになった。  そのうち、クラスメイトからの嫌がらせもなくなって、友達とも仲直りができた。お互いに謝りあって……みたいなことは覚えていないけれど、たぶん心のうちで両方ともずっと苦しんでいて、お互いにそれを感じ取って、なんとなく、もとの関係に戻っていけたのだと思う。佐藤さんの話も、たぶんしていない。  私は今、その友達に電話をかけていた。なんとなく、今日のできごと……佐藤さんが佐藤さんでなかったと知ったことを話したくなったからだ。
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