1人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「藤さんっていうんだね」
「え、なんで……」
「名札」
「あ……」
佐藤さんと話をしたのは、二年前。私が中学の二年生だった春だ。
私は友達とケンカをした。私のちょっかいがきっかけだった。最初は一対一のケンカだったけれど、そのうち友達のほうに、クラスメイトたちが味方するようになって、嫌がらせを受けるようになっていった……靴を隠されたり、傘でつつかれたり、さりげなく雨水をかけられたり。
ある雨の日、そういった嫌がらせ……いじめを受けていた私をたまたま見かけて、声をかけてくれたのが、そのとき高校生だった佐藤さんだった。面識はなかったけれど、私は佐藤さんの優しさに甘えて、胸に抱えていたものを全部吐きだした。
佐藤さんはほんとうに親身になってくれて、何度か会って、話を聞いてくれた。そして、少しだったけれど、アドバイスもくれた。
あるとき、佐藤さんが私を誘った。
「藤さんの名前で思い出したんだ。ここから一駅の公園に、きれいな藤がある。見にいこう」
最初のコメントを投稿しよう!