第1章 母ちゃんの笑顔

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第1章 母ちゃんの笑顔

 「今日はこの間の算数と、国語のテストを返します。 呼ばれたら元気なお返事をして、先生のところに取りにきてね」 担任の村井先生は独身、30代前半の女性教師だった。 隣町の大きな小学校から、この村の小学校にこの春転任したての先生だった。 村井先生は、クラスの子供たちの名前を順に呼んではテストを返却する。 「榊理人(さかきりひと)くん」 「はい」 理人は元気な返事をして立ち上がると教卓の前まで歩いて行った。 村井先生は理人の顔を見ると少し困ったように笑った。 「えっとね・・・・。 算数は全部できてるの。 本当は100点なんだけど・・・・・。 先生、お名前書かないと0点になりますよ、って言ったわよね? それから・・・・ 今回も、国語、どうして何も書かなかったのかな?」 理人は返されたテストを見る。 算数にも国語にも大きく0点と書かれている。 「ねぇ、理人君、何がおかしいの? どうして笑ってるの?」 村井先生が少しイラついたように理人に言った。 「せんせーっ」 立ち上がったのは同級生の(てる)だ。 「このクラスで名前書かないのは理人だけなんだから、理人だってわかるじゃん。 算数全部できたなら、理人は100点だっ」 村井先生は困った様にため息をついた。     
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