悪い奴

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悪い奴

 二階建てのベランダには今日も洗濯ものが干されている。時間はいつも通り十時を過ぎていて、ここ二週間は毎日変わらない光景だった。木造二階建てで、屋根の色は赤く、縦に長細い建物は住宅街によくある、何の変哲もない住居の一つだった。それを目島信二(めじましんじ)はハンチング帽を目深に被り、少し離れた距離から眺めていた。  そろそろ、頃合いだった。目島がそう思っていると、一人の女性が家から出てくる。彼女は入口近くの自転車のところに行き、後部座席の子供用の座席をいじってから、自転車に跨り、どこかに行ってしまった。彼女を見送った後、目島は通りを仕切りに確認し、人がいないとわかると躊躇(ためら)いのない足取りで、その家の玄関まで歩を向けた。路上から玄関まで門のような(へだ)てるものはなく、すんなりと敷地に侵入できる。目島は慣れた様子で玄関のチャイムを鳴らす。少ししてからもう一度鳴らし、室内の反応がないことを耳で探る。中に誰もいないと確信すると、口許に笑みを浮かべつつ、家の壁沿いに玄関の側面に回る。側面には申し訳程度の庭があり、圧迫するように隣家の塀で囲われていて、通りからは見通しが悪くなる。目島はゆっくりと軒下に近づき、室内の様子を窓ガラス越しに窺った。
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