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ローストチキン
★
「佐藤さんは、休みの日は何を?」
丸の内にある隠れた場所にあるローストチキンが絶品という店に来ていた。
こんがり焼かれたローストチキンは、香りからして食欲が倍増する。
「休みの日は、本を読んだり調べものをしたり……本を読んだり」
「本がお好きなんですね」
「えぇ、1日何も食べずに本を読んでいたこともあります……あっ」
佐藤さんは、私を窺うように見る。
「申し訳ありません。本の話はするなと言われてたんです」
「柳原係長に? どうして? 」
柳原係長は、私の上司であり、部下のお見合いをお膳立てするのが大好きな人だ。
今回は、私に白羽の矢を立てたようだ。
『何がなんでも30歳のうちに結婚しましょうね!』と気合いを入れられていた。
「えぇ、女性につまらない話はしないで。特に本の話はダメだって」
「そんなことないですよ。どんな本を読むんですか?」
笑顔で聞いてみると、途端に顔色が良くなり饒舌に最近読んだ『アルケミスト』という外人の書いた本について、たっぷりとデザートのケーキが運ばれてくるまで語った。
「も、申し訳ありません! 僕、本の話ばかりして」
「いえ、楽しかったですよ。佐藤さんの話」
「え? 本当に?」
メガネのブリッジを指で押す動作をしながら私を見る佐藤さん。
「読んだことのない本でしたから」
「あ、いや……でも……僕は、こんなんだから女性には敬遠されるんです」
落ち込んだ様子で、佐藤さんはメガネを外し目頭を指先で押さえた。
鼻が高くて彫りが深い顔立ちは、なんとなくイギリス人みたいな雰囲気でもある。
「僕の話ばかりで申し訳ありません。花さんは、休日はどんな過ごし方を?」
佐藤さんが、ようやく私に話を振ってきた。
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