独り

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家に着くと、私は繋いでいた手を引っ込めた。 「じゃ」 バッグから鍵を取り出し勝己に背中を向けた。 「じゃ……」 長い時間だ。5年という空白の時間。 私は非凡を目指し努力してきた。いつもならやらないようなこと、言わないようなことをしてみよう、やってみようと奮闘した。 体を動かすのが好きでもないのに、ジムへ通ってジョギングも始めた。 苦手な激辛ラーメン屋に独りで入ってみたり、お洒落なbarにも独りで行った。 独りでなんでもできるような自立した女性、普通ではなく非凡で魅力のある女性。 独りでいても決して可哀想とか気の毒とか言われずに済むような格好いい女性に憧れていた。 私は、おひとりさまにも結構慣れた。もう、独りでも平気な女だ。 5年という長い月日の中で、出会った男たちを思い出してみる。 みんな自分勝手で、独りよがりな男ばかりだった。あんな男たちとなら一緒にいない方がまし。 一応、家まで送らせてあげる男は選んでいる。 「札幌の話、まだまだあるの?」 鍵を開けながら尋ねた。 「あ? もちろん、たくさんある。朝まで話しても足りないくらいな」 「なら……」 振り返って、勝己を見た。 勝己が私の顔を見つめ次の言葉を待っている。 その懐かしい顔に心が泡立つ。 送らせたい男は決めている。 それは、5年前から一歩足りとも変わっていない。 非凡ってなんだろう。 普通ってなんだろう。 普通とか非凡とか、一体誰が決めるの? 「なら... 」 自分の尻は自分でふく。 あれから、私はそう決めたのだ。 カチャリ 扉を開けたのは、自分の意思だ。 この5年で私は、おひとりさまに慣れた。 そもそも人から格好いいと言われるようなっ女性になるという考え方事態が間違っていた。 すべてが普通過ぎていたのだ。
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