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「はい」
「なら、こちらへどうぞ」
すぐに席に案内された。店の出入り口に一番近い二人がけの席だ。
「ここ?」
入り口から数歩しか歩かずについたテーブルを指さした。
「はい、あとは2人以上でご来店された方の席と予約席でございます」
当たり前な事を聞いてくるなと言わんばかりの店員。
奥の方を眺めると、開店して間がないこともあってか、席は沢山空いていた。
「おひとりさまの席は、こちらしかございませんが、いかがなさいますか?」
「あっちは、使えないの?」
奥の方に見つけた二人がけの席を指さす。
「あちらは、予約席でございます」
目をしっかりと合わせて、怒ったようにきつい言い方をされた。
「……そう」
いつもなら、ここでひるみ、白旗をあげる。
参りました。
わかりました。
私は、あなたの言う通り、ここに座ります。ここが独りで店に来た、いわゆる『おひとりさま女』の席とおっしゃるのでしたら仕方ありま... ... 。
仕方ありま... ... す!!
「なら、やめます」
「え?」
惚けた表情を見せる店員。
「やめます。この店」
臭いからとか、席が嫌だから、店員の態度がムカつくからとか理由は一切言わなかった。
ただ、私が出した結論だけを言って踵を返した。
ドキドキしていた。初めてだったから。
店まで入って、座らずに帰ったことなんか今までなかった。
やってみて、かなりスッキリした。
新しい自分になった気分だった。
あの日は、結局フレッシュネスバーガーへ行きハンバーガーを食べた。
空腹が満たされたものの、イタリア料理屋の店員にイライラしていたし、映画館内に入って席に座ると後ろに座った人が咳をするのが気になって映画にはあまり集中出来なかった。
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