おひとりさま

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映画が終わり、エンドロールが流れ始めると、私は残っていたポップコーンを掴んで口に押し込んだ。 劇場内の電気が点いて、ガタガタと動き出す人達。 カップホルダーからカップを持ち上げる時に、ふと座席番号を見て目を見張った。 Gの1。 あれ、Fじゃないなんて! 身を乗り出して前の席の座席番号を見た。 まだ、前に座る若い男の席には、間違いなくF1と番号が示されていた。 「あのぅ、すみません」 男の横に立ち、かがんで話しかけてみた。 「はい?」 私の方へ顔を向けた若い男。キリッとした瞳が印象的だった。 「あの……もしかして、私が座ってた席……貴方の席でしたか?」 映画が始まる前に私が座っていた席まで来て、チラリと私を見た状況から考えるにたぶん、この人の席だったんだと思えた。 「構わないですよ」 言いながら立ち上がった男は、割と背が高かった。 「気にしないで。どこで観ても同じ映画ですから」 シャープな顔立ちの男が、フッと笑みを漏らした 階段を下りようとする男。 私はその男の腕をガシッと掴んでいた。 以前の私なら、そこでドジを踏んだ自分に対し自己嫌悪に陥っていたところだ。 だが、今までの私とは違う。 私は、強くなった。 今までの自分の狭い世界、考え方にとらわれていたら人生は何も変わらないし、始まらない。 ドキドキして、心臓がどこかとんでもない場所から肉を破り飛び出してきそうだった。 振り返る男は、とても驚いたような表情をして私を見おろした。 「本当にごめんなさい」 頭を深く下げて自分の過ちを謝罪した。 ぎゅっと唇を噛み締め、履いていた買ったばかりの白いミュールをじっと見ていた。
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