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数十分前、映画館で席を間違えたことを謝罪すると「お腹すきません?」いきなり言われて答える間もなく「苦手なものは?」と聞かれたのだ。
「苦手なものは……イタメシです」
イタリア料理屋で冷たい対応をされた日から、イタリア料理が苦手になっていた。
何故か成り行きで一緒に歩いて劇場を出た。
「そう、だったら手羽先は?」
「手羽先……は、好きです」
「良かった。じゃ、ご馳走しますね」
「いえ、ご馳走してもらう理由が無いので」
「理由かぁ。貴方が座席を間違えたから、奢ります」
「え、悪いのは私ですから」
「悪くなんかないですよ。悪いのは、俺です」
「え?」
「えぇ、俺の腹が空いているので手羽先食べに貴方に付き合って貰えたらなぁと、今思いついてしまったから。悪いのは俺です」
ニッコリと笑った顔に、ギャップを感じた。映画が始まる前にちらっと私を見た時は、少し険しい表情で怖い印象だった。
だが、話してみると怖い印象とは反対に人懐こくて柔らかい印象に変わった。
思わず、くすっと笑みがこぼれる。
「可笑しい?」
「はい、少し」
「参ったな」
困ったように横を向いた男。
「なんだか私、ナンパされたみたい」
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