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余裕がある理由
★★★
湯葉を食べている時に、ふと目の前の岡田さんが柔らかく微笑んだ。
「なにか?」
「いえ、可愛い食べ方をするなあって思って。大人の女性にこんな事いうのは、失礼なのかなあ」
「可愛い食べ方ですか? 初めて言われました。それってどんな食べ方なんでしょう」
自分で自分の食べ方を見たことがないから、良くわからない。
「小さな口をもぐもぐって動かしてるから。うーん、単に唇が可愛いのかなあ」
「唇が可愛い……初めて言われました」
以前の私なら、ここで頬を染めるしか出来なかった。
だが、今の私は違う。
以前のままだと私は普通なままで終わる。
そう、終わってしまうのだ。
「初めて言われました。そんな歯が浮くような台詞」
案の定、少し驚いた表情の岡田さん。
「浮きました? 亜紀さんって、はっきり思ったことをいう人なんですね」
「はい、最近は可愛げがない女なんです」
「いえ、はっきりした女性はタイプだなー」
岡田さんの瞳が、視線が気になる。
「あの……」
気になっていた事を聞きたくて仕方が無かったことを聞いてみることにした。
「くどいてます?」
これも前なら言わなかった。
「え?」
瞳を大きくした岡田さん。
「すみません。勘違いして」
「いえ、ばれてましたか」
「ばれて? ってことは、くどいてたんですか?」
「正確には、くどいてる最中です」
にっこりと余裕の笑みを見せて岡田さんは、ビールを飲んだ。
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