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すれ違うたびに、目があった。
見透かすように頬笑む口許は、いつも血色のよい薄紅いろ。自分では、色素が濃くていやだ、なんて同じクラスの女子にこぼしている。
うそつきだ、と思った。
転校してきた初日から、あいつは俺の隣でそっと、思わせ振りな行動ばかりしてくる。教科書を貸せば「ありがとう」と上目遣いで礼を言って、緩やかに頬笑む。首筋にあるほくろをわざと見せつけるように、ワイシャツの胸元をはだけさせる。
俺に対してだけ、じゃないといけない。いつしかそんな、根拠がない独占欲に心が支配されていった。
ふと、よそ見をすれば手をつないでくる。絡める指が汗ばんで、顔がかっと熱くなる。
「どうしたんだよ、真っ赤だぜ?」
目尻に、勝ち誇った色を浮かべるあいつに顔を近づける。
「そんなことしても、怖くないよ。それとも……キスでもしとく?」
至近距離と化す唇同士に、同性とはいえ、吸い付きたくなって。
ためらって、目をそらす。
クスクス、と忍び笑いが薄紅の唇から漏れた瞬間、
「……意気地無し」
と、あいつは上目遣いで俺を煽った。
ぐい、と細い腰を抱き寄せて唇を重ねる。半開きになっている無防備な隙間から舌を押し込んで、ぐちゃぐちゃにかき回す。襲うように。
倒れそうな熱量に、身体が反応する。それを許すように、あいつの指先が太股を撫でる。つう、と腰をなぞられ、堪らず首筋のほくろをジュウっと吸う。
「……続きは、僕の家で、ね?」
囁き、誘う言葉に俺は頷いた。
ずっと好きだった。
会ったときから。
もう僕のもの。
ここも、全部僕のもの。
するりと、自身を撫でられびくんと衝撃に身体がもてあそばれる。
帰ろう、早く。
軽いキスを頬にし、手をつながれた。
我慢できないと、付け加えられながら。
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