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彼女は高野聖の秘密を知ってしまった。所用で聖を探していた弓月はあまり人が来ない資料室で聖を発見した。すぐに声をかけようとしたが、どうやら聖は携帯電話で誰かと話し中だった。
『見つけた。まさか学生になっていたとはな。見つからないわけだ。………あぁ、分かっている。最悪、殺すことになるだろうな』
がたっ…!!
穏やかならぬ話の内容を偶然聞いてしまった弓月は動揺して物音を立ててしまった。
『これはこれは、弓月さん。どうしたんです?こんなところで』
電話の内容を聞かれていた事実に気付いているはずなのに、聖に動揺の色はない。それどころか口許にはうっすらと笑みまで浮かべている。
そんな聖ににじり寄られた弓月は腹を括った。
『あなた、何者?』
『正義の味方、とでも言っておきましょうか。ほら、次の授業が始まってしまう。早く戻りなさい』
弓月は釈然としない様子で渋々場を後にした。
「アイツが最悪殺すとか言う相手がこの学校ん中にいるのよ?!あんな…あんな善人面して、のうのうと中世ヨーロッパの歴史語ってるくせにぃ~!!!」
弓月は相当ご立腹の様子である。こめかみに血管を浮かべて叫んでいる。
「まぁまぁ、弓月。そろそろ聖先生の化けの皮剥がしやめないと、とんでもないことになるわよ?」
小首をかしげながらそう言う友人は、しかしイエスと言わざるを得ない空気を醸し出していた。そんな瑠架の様子に気圧されした弓月は、もうやめると言ってしまった。
その返事を聞いた瑠架は満足したようににっこりと笑った。
「時々、瑠架って人間じゃないみたいに綺麗に見えるね」
「そう?褒め言葉として受け取るわ」
おっとりと返し、瑠架は次の授業の準備をしだした。
しかし。
瑠架は気付いているのだろうか。
時々、瑠架の瞳の色が薄い茶色から、鮮やかな朱色に変わることを。
それは、ゾッとするほど、美しい瞳。
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