二、高野聖

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 その写真は丁寧に瑠架の顔をアップしている。一瞬瑠架の顔が強張(こわば)った。 「これは今、一部のネット上で噂されている美少女ヴァンパイアです。誰か殺した後なのでしょうか?口許が美しく、血の色に染まっているでしょう?」  瑠架は黙ったままだ。 「私はね、この写真を見つけた時から、無性にこの美しい生き物を手に入れたくなったのですよ。ガラスケースに入れて、毎日眺めていたい……」 「悪趣味ね」 「何とでもどうぞ。しかし、手に入れたいと思ったものの、この美しい蝶は何処(どこ)にいるのか」  そこで聖は手当たり次第、ヴァンパイアが出そうな街を夜な夜な見張っていた。しかし一向にヴァンパイアは姿を現さなかった。そんなことをしていると、とりあえず受けた教員試験に合格してしまった。もちろん辞めるつもりだったが、学校で瑠架を見つけたのだ。 「寒気がしましたよ…。まさかヴァンパイアが学校に通っているなんてね」  しかししばらくして聖には、瑠架の隣りでいつも一緒に笑っている弓月の存在が気になった。 「確かに彼女も美しい。が、所詮は人間の美だ。(あやかし)の美しさには勝てるわけがない……」  そこで聖はこの弓月を利用することにした。弓月の傍で一芝居うったのだ。 「彼女は予想通り、貴女に私のことを報告してくれた。感謝していますよ……」  そうして瑠架に自分を印象づけたのだ。 「じゃあ、弓月が言っていた電話の話は、狂言だったのかしら?」 「ええ。始めから、ヴァンパイアの捜索は私一人でしていましたから」  その時だった。突然の突風が聖を襲った。結界は粉々に砕け、瑠架は風をその身に(まと)い、ゆっくりと聖に近寄って行く。聖はこの状況についていけない。パニックに陥る聖に、瑠架はゆっくりと牙を立てた。 「チェックメイトよ、先生……」 「待て」  今にも聖の頸動脈に歯を立てそうな瑠架を静かに制する声が響いた。  瑠架はゆっくりと振り返りその人物を見上げた。 「ヘル……」  そこには黒いフロックコートを風になびかせ、闇に紛れるように一人の男が立っていた。
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