二、高野聖

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 そう。  聖が話している間に、日は完全に暮れた。闇の世界はヴァンパイアの世界。太陽が出ていることで抑圧されていた瑠架の力は、日没と共に開放され、聖が創っていた結界をすぐに破壊したのだ。  ヘルと呼ばれた男は聖とはまた違った、深みのある黒い瞳を持っていた。肩よりも少し長い髪を後ろに縛り、その髪も聖のものとは少し違う。そして瑠架同様に白い肌、病的なまでに美しい顔には今は悪戯な笑みが広がっている。  聖が陽なら、ヘルは間違いなく陰の存在だ。顔の作りも日本人のものとは異なる美しさだ。  瑠架はこの綺麗なヴァンパイアを見上げ、眉を潜めている。 「どうして邪魔なさるの?」  しかしヘルは答えない。じっと聖を見つめている。聖もまた、ヘルから視線を外せないようだ。 「久しぶり、セイ。元気してタ?」 「ヘル、か……」 「いつ以来かなぁ、君に会うのは」  ヘルはニコニコしながら聖に話しかける。聖の方は顔が強張っているようだ。 「知り合い?」 「まぁね」  ルカの問いに端的に答え、ヘルは再び聖に向かった。 「ねぇ、セイ。とりあえず、今日のところはそこのカワイコちゃん置いて引き上げてくんない?」  聖は何も言わない。  ヘルはぐっと聖に顔を近付けると至近距離でにっこりと微笑んだ。  そんな笑みを見せられ聖は何も言わずにその場を立ち去るしかなかった。  聖が去ると弓月がゆっくりと目を覚ました。  瑠架はすぐに弓月に駆け寄る。 「弓月、大丈夫?」 「近寄らないで!!」  しかし弓月は、そう言って瑠架をはね飛ばした。瑠架は目を白黒させている。 「全部、聞いていたのよ?」  弓月は瑠架を睨み上げ、屋上から去っていった。
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